”ダーウィンの海”に溺れそうな若社長がつかんだフラッグ

このお話の主な登場人物

・『ザ・ベストフラッグ』店主 黒縁眼鏡のWebコンサルタント
・『ザ・ベストフラッグ』看板フラッグ犬
・今回の悩める企業人・会社の現キーマンと社員のみなさん

*このブログのお話は創作です

ここは、悩める経営者だけに見える店『ザ・ベストフラッグ』。
人知れず、中小企業経営者・役職者に悩み解決のヒントを手渡している、秘密のブログです。

店主のもとには、色とりどりのミッションフラッグが用意されています。

どのフラッグを手渡されるかは、それぞれの企業人の悩みしだい。
どうやら、今日のフラッグにはこう書いてあるようです。

「 ダーウィンの海を渡るために最初に必要なことを決めさせる 」

 

フラッグを手渡された人は、会社内のキーパーソンにこのミッションを引き継ぎ、遂行させなければなりません。

しかし、その前に「ダーウィンの海」とは何か?、そしてダーウィンの海と併せて使用されることの多い「魔の川・死の谷」についてもおさらいしておきましょう。

魔の川・死の谷・ダーウィンの海とは

ビジネスにおいて、新たな事業を展開していくなかで待ち受ける3つの関門のこと

  1. 魔の川
    新技術等の開発を成し遂げられるかどうかの関門。どれだけ根拠や努力を並べても、魔の川を渡るには時の運も無関係ではないことから、このように呼ばれる。
  2. 死の谷
    技術を製品化できるかどうかの関門。①で苦労して開発した技術でも、それがどれほど優れた技術であっても、製品化できるとは限らない。
  3. ダーウィンの海
    開発した技術で新製品を作り上げることに成功したとしても、それを市場で販売し成果を上げるのは至難のわざ。実力だけでは万全ではなく、自然淘汰されかねないことから「進化論」のダーウィンの名が冠されたとされる。

『ザ・ベストフラッグ』の店主が、フラッグ犬におやつをあげながら、素晴らしい志や開発技術、やる気のある会社は絶対に報われてほしいなあ、とぼんやり考えている模様です。

今回ザ・ベストフラッグを訪れるのは、まさにこんな会社の経営者。
どのような悩みを抱えて、この路地裏の小さな商店に現れるのでしょうか。

黒字も赤字も紙一重。

あなたの会社を動かす、現在のキーパーソンは、一体全体誰なのでしょう?
今日もまた、何も知らない企業人が一人、路地裏に向かってきます。

まずはこの人の現在の悩みを見てみましょう。

【技術もモチベーションも高水準の町工場】”売り出す力”をどうする?

今回の主役は、旋盤加工や精密部品加工を請け負う町工場の若社長。やり手社長として、業界でも一目置かれる存在です。
この工場の従業員は全部で10人。

このうち、今回の主な登場人物は、やり手の若社長、この工場に40年来仕える”番頭”こと工場長、リーダー格社員である”主任”、そして上司からも一目置かれる若手エース社員”メカオタク君”の4人です。

この会社は寂れた商店街の一角に建っています。
小規模な町工場ではありますが、取引先は自動車製造業、精密機械製造業、宇宙産業など多岐にわたり、業績は好調です。

しかし、若社長は日頃から、取引先製造業の部品のみを生産することに物足りなさを感じていました。
自社の高い技術力はもとより、社員のモチベーションや創造性の高さを持て余しているという実感があったのです。

また、元気のない地元商店街まで注目されるような大発明ができれば、地域を活性化できるのではないか、とも考えていました。
同時に若社長は、社会的課題となっている環境問題の観点から、CO2排出量が多くなりがちな工業系の製造業者として生き残っていくためには、自然環境配慮型の製品開発など、独自の新機軸を打ち出す必要があるとも思っています。

そこで、以前から関心があった新たな発電システムの開発に乗り出す決意をしました。

若社長は手始めに、番頭、主任、そしてメカオタク君とともに、開発チームを立ち上げました。

再生可能エネルギーといえば太陽光発電が独走している印象ですが、若社長は太陽光のような装置ではなく、「機器自体にも再生性のある小規模な発電機を売り出したい」と初めての会議で提案。
集まった社員たちは、並々ならぬ関心を示したようです。

あれこれと意見が出て会議が進むなか、鶴の一声を発したのは、番頭でも主任でもなく、当時入社5年目の若手エース社員”メカオタク君”でした。

「振動」を使った発電をメディアで見たことがあって興味があるんです、とメカオタク君は言い出しました。

社長はこの意見に心惹かれ、その場でPCの画面を覗き込んでリサーチしながら、4人で額を寄せ合い、ああでもないこうでもないと意見を交わします。

結果、番頭の「面白そうだね」の一言をGOサインに、新技術・新製品の開発が始まりました。

紆余曲折を乗り越え振動利用の発電システムが完成!しかし…

社長は社内チームで新たな発電システムの設計を完成させると、何度となくトライ&エラーを繰り返しながら、何とか小型振動発電の仕組みを完成させました。

全てが再生可能な素材を用いて機器を製造することは至難のわざです。しかし、解体すれば全てリサイクルできる材料だけを使うことにより、その課題もクリアできるという結論に至り、環境面の問題も克服。

技術開発が出来上がった段階で4人の企画チームから社員10名態勢に変更し、通常業務と並行して努力を重ねてきました。
技術開発と製品の試作までに3年近くを要しましたが、かなり短期間でここまで漕ぎつけたと社長は自負しています。

また、旋盤加工や精密機器部品の高い製造技術と、発電機メーカーと長年取引してきたなかで培ったノウハウを活かせたことから、出来上がった機器は試作段階からなかなかの完成度です。

短期間でここまでの製品開発を実現できた要因は、誰の目から見てもメカオタク君の貢献度の高さにありました。
メカオタク君は優れたアイデア力を持ち、また子供の頃から機械の分解などが大好きだった筋金入りの機械マニアだといいます。

「好きである」以上に強いことはないと若社長は痛感し、メカオタク君への評価をさらに高めました。

しかし、ここで大きな問題が立ちはだかります。この画期的な新製品をどう売り出していけばいいのか、社内にはそのノウハウが全くありません。

皆腕の良い職人ばかりで、技術開発と製品造りには前のめりでしたが、売り出し方を考えろと言われても全くアイデアが浮かばないようで、会議はいつも不発に終わってしまいます。

社長は焦りを覚えるようになりました。
番頭にアイデアを訊ねてみると、取引先の大企業に売り込んではどうかと言われました。みすみす新技術の権利をよそに譲ろうというのです。

主任の考えを聞いてみたところ、営業代行というのがあるらしいですよ、と答えました。社長は一瞬なるほどと思って調べてみましたが、安心な業者がどこなのかもわからず、行動に出ることができません。

社長は残るメカオタク君のアイデアに期待をかけましたが、彼からは「テレビコマーシャルを出してはどうですか」という非現実的な返事が返ってきました。

社長はその意見のあまりの幼稚さと現実味のなさに呆気に取られます。
そして、ふと気づきました。うちの社員は皆物作りには長けているが、物を売り出すスキルが全くないのだということに。

下請け業者として長く安定経営してきたのですから、営業や広報のノウハウがないのは仕方がないことかもしれません。

しかし、良い製品さえ出来上がれば全てうまく行くと思い込んでいた社長は、ここで初めて決定的な手詰まり感を味わうことになったのです。

このままではせっかく注ぎ込んだ費用も時間も水の泡になり、寂れかけた商店街を救うどころか、うちの会社は今後どんなに優れた技術を開発しても、それを買ってもらうことができないのではないか。

社長は新製品開発の喜びから一転、先の見えないトンネルに迷い込んでしまいました。

あやしげな路地裏の商店で出会った謎の男からの助言

せっかく製品化まで漕ぎつけた新技術の販路をどう拓いていけばいいのか。

不安でたまらない若社長は、憂鬱な気分を紛らわせようと、通い慣れた小料理屋に立ち寄りました。いつもは2杯ほど飲んで帰路に着くところを、その日は倍くらい飲んでしまいました。

ですが、不安が強いせいか酔いさえ回ってくれません。
会計を済ませて外に出ると、あいにく小雨が降っています。

「天気まで俺を見放した」

若社長はぶつぶつと愚痴をこぼしながら、タクシーを拾える大通りまで出ようと歩を進めます。
うちの会社はせっかくの優れた能力を売り出すことすらできないのか。

社長は情けなくなり、今後の会社運営に自信が持てなくなりました。
とぼとぼ歩いていると、社長はふと、いつまで経っても大通りに辿り着かないことに気が付きました。

その代わり、目の前には見たことのないレトロな路地裏が延びており、道の先にはあたたかなオレンジ色の灯りが味わい深い看板と扉を照らしています。

まるで呼ばれているようだ、と感じた社長は、その扉に向かって歩き出していました。

「ザ・ベストフラッグ」というその商店のドアを開けると、中には黒縁眼鏡の男がミニリュックのようなハーネスをつけた犬を抱いて、社長の来店を待ち構えていました。

社長は促された椅子に座る前から、自分の口が勝手に動き出していることを不気味に感じました。
いつのまにか社長は黒縁眼鏡の店主と向かい合い、口角泡を飛ばして熱心に事業の悩みを告白していたのです。

社長の話を聞き終えた店主は、ようやく口を開きました。

「御社の創造性や技術力の素晴らしさ、社員の皆さんの士気の高さはよくわかりました。ですが社長、生みの苦しみとともに、新しく生まれた製品を世に送り出す苦しみを乗り越えないと、どんな素敵な技術も製品も、それを必要とする人の手に届きません。御社が開発した新製品を必要とする人は誰ですか?その人に製品を知られるにはどうしたらいいのでしょうか」

謎の店主はそう言うと、背後の引き出しから1本の旗を取り出し、膝の上のフラッグ犬の背中のケースにそれを挿し入れました。
訓練でもされているのか、犬はすぐさまテーブルの向かい側に座っている社長にそのフラッグを渡しに来ました。

旗をよく見てみると、その表面にはこんなふうに書いてあります。

「 ダーウィンの海を渡るために最初に必要なことを決めさせる 」

商店主は、こんなふうに説明を付け加えました。

「書いてあるミッションを課すべきキーパーソンの肩に、そのフラッグを立ててお使いください。注意事項は旗の裏にありますので、店を出たあとでご覧ください。困ったことがあれば私が助けますが、まずはやってみることが重要です」

社長は「ダーウィンの海とは何だろう」と戸惑いましたが、とにかく帰ってググってみようと考え直します。

帰宅後「ダーウィンの海」を検索したところ、それは「開発した技術を製品化できた後、市場で売り出していくことの難しさ」をたとえたビジネス用語であることがわかりました。

なるほど、と頷いた社長は店主の言葉を思い出し、フラッグの裏面を確認しました。

「この作戦を決行する上でキーパーソンとなる人の肩にこのフラッグを立ててください。あなた以外にはこのフラッグは見えません。ただし、人選を誤ると、会社の命運が大きく変わってしまうでしょう」

この恐ろしい注意書きを読んだ社長は、最も有望でありながら、製品を売るということに対する意識が最も低いメカオタク君に白羽の矢を立てることを決意します。

フラッグを立てられたメカオタク君の出した答え

翌日、早速社長はメカオタク君の肩にこのフラッグを立てました。

「せっかく素晴らしい製品を開発したんだ。最後まで諦めずに、販路を開拓するまで責任を持って取り組もう。その第一歩としてまず何を決めるべきか、君が来週の会議の議題を決定してくれ。君が出した答えを全面的に応援するから」

社長が真剣にそう語りかけると、メカオタク君は一瞬困った顔をしましたが、「考えてみます」と返事をしました。

結局ろくなアイデアを持ってこないのではないかと、内心では半信半疑だった社長。しかし、来週を待たず、その週のうちに社内に大きな変化がありました。

メカオタク君からの呼びかけで、前倒しで販路開拓会議が開かれたのです。
会議の冒頭でメカオタク君は「まずは誰に売りたいのかを決めましょう」と言って議題をフィックス。
その議題に決めた理由についてメカオタク君はこう語りました。

「ここまでほぼ完璧に思えた開発過程で、何が不足していたのかを考えてみました。すると、わが社の新製品を手にした時に心から喜んでくれる人は誰か、こんなのが欲しかったと思ってくれる人は誰なのかということを、僕は一度も考えたことがないなと気づきました」と。

メカオタク君はこう続けました。

「お売りした時に、ありがとうと言ってくれる人。それがこの製品を宣伝すべき相手だと思います」

社員は一様に頷き、まずは新製品の販売を一番喜んでくれる人が誰なのかを決定し、その人の目に最も触れやすい宣伝方法を考えようということになりました。

話し合いの結果、開発した新製品はエコで電気代削減にも繋がり、小型で導入しやすいという特長を持つことから、買ってほしい人を「町工場などの小さな製造業」とすることが決まりました。

また、この結果に伴って、会社のホームページを作り直すことも決定。
10年前に作ったいかにも簡易的なつまらないホームページでは誰にも見向きもされないのではないか、と若手社員から意見が上がったことがきっかけです。

社長は、既存の取引先が多いため、わざわざホームページに注力する必要などないというそれまでの考えを改めました。
「ホームページには商店街の紹介ページも作って、地域活性の一助とするのも良いのではないでしょうか」とメカオタク君。社長と番頭は、急に視野が広がった様子の若手エースの発言に、目を細めて頷きました。

その頃、例の路地裏の商店では、黒縁眼鏡の店主がこんなことを呟いていました。

若社長、ナイスフラッグ!誰に売りたいかを明確にすることは、販路開拓・拡大をする上では基本中の基本です。素晴らしい会議を開くことができ、また、社内がひとつになったようで良かったですね!ホームページ制作のご相談、いつでもお待ちしてます!

さて、この会社の新製品の行方はいかに。

本作品のイラスト協力:ConnectRE 様
ポートフォリオリンク:https://www.connect-re.jp/

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