自らが誰よりも努力家だから社員に不満しか感じない社長のフラッグ
『ザ・ベストフラッグ』エピソード6
- 『ザ・ベストフラッグ』店主 黒縁眼鏡のWebコンサルタント
- 『ザ・ベストフラッグ』看板フラッグ犬
- 今回の悩める社長
- 会社の現キーマンと社員のみなさん
ここは、悩める経営者だけに見える店『ザ・ベストフラッグ』。
人知れず、中小企業経営者に悩み解決のヒントを手渡している、秘密のブログです。
偶然立ち寄ったあなたを待ち受けるのは、自己との対峙か、社員からの信頼回復か、それとも…
店主のもとには、色とりどりのミッションフラッグが用意されています。
どのフラッグを手渡されるかは、各々の社長の悩みしだい。
ほら、今日のフラッグにはこう書いてあるようです。
「顧客行動理論を使って自らの行動を省みる」
フラッグを手渡された経営者は、このミッションを遂行しなければなりません。
しかし、その前に、顧客行動理論とは何かを、おさらいしておきましょう。
またの名をAIDMAという顧客分析手法の枠組みのこと。
AIDMAとは、以下の5つの要素のイニシャルからできている言葉である。
- Attention
-
注意および認知
- Interest
-
興味
- Desire
-
欲求
- Memory
-
記憶
- Action
-
行動
顧客が商品購入やサービス契約にいたるまでの行動を心理から紐解き、
マーケティングに活用する目的で行う分析のことをいう。
『ザ・ベストフラッグ』の店主が、店先をほうきで丁寧に掃きながら、何かつぶやいているようです。
ビジネスには分析力が必要不可欠です。 そして分析力を養うためには豊かな想像力が欠かせません。 クリエイティビティにすぐれた人は、人望や信頼を得る素質があります。 ただ、分析の対象は、お客様だけではないということもお忘れなく。
黒字も赤字も紙一重。
あなたの会社を動かす、現在のキーパーソンは、一体全体誰なのでしょう?
今日もまた、何も知らない社長が一人、路地裏に向かってきます。
まずはこの社長の現在の悩みを見てみましょう。
誰も信用できなくなった社長が迷い込んだ路地
ヨガ教室を併設するリラクゼーション店を、30店舗展開している中小企業社長。
女性経営者ならではの着眼点が受け、これまで幅広い年齢層の女性顧客を獲得してきました。
一昨年の年商は10億円を突破。業界内では有名人です。
社員や従業員もすべて女性で構成されており、創業当時から数年は「勤めてみたい会社」という噂が流れる自慢の職場でした。
ところが、最近では社内に不協和音が響いており、売上もじわじわと下がってきています。
というのも、ストイックで超がつくほどの努力家である社長は、「自分ができるのにあなたにできないわけがない」という理屈を従業員に押しつけがちで、人材の流出が後を絶たないのです。
講座に通って新たなストレッチ方法や栄養指導法の資格を取るべき、とか。
終業後も自主的に厳しい研修を重ねていくべき、とか。
お客様に憧れていただけるよう、体型や身だしなみにも細心の注意を払わなければならない、とか…。
そんな社長の言動にしびれを切らした統括部長からは「最近の若い人は、厳しい指導をすると逃げてしまいますよ」「コンプラに抵触しかねませんよ」などと助言を受けることがありました。
統括部長は創業当時から社長と二人三脚で頑張ってきた最古参で、社長よりも2歳年上の主婦です。
しかし、最も信頼を寄せてきた部長に対しても、社長は強気を崩しません。
「みんなが堕落してからじゃ遅い。そうなったら、あなた責任取れるの?」と詰め寄る始末です。
実は、この統括部長が、数ケ月前に独立して競合になってしまったことも、社長の悩みの種となっています。
近ごろの社長は、人望が厚かった部長を追い出した犯人のように見られ、その後ろめたさから、余計に厳しい言葉を社員に浴びせるようになりました。
悪いことに、注意してくれる人がいなくなり、歯止めがきかなくなっています。
ある時社長は、従業員がスタッフルームで自分の悪口を言い合っている会話を聞いてしまいました。
悪口を言っていた3人が、自分のことをそれぞれ「あの人」「あいつ」「ガン」と呼んでいることを知り、社長は年がいもなく涙をこぼすことになったのです。
社長は行き詰まり、肝心な仕事にも身が入らなくなりました。
友人が経営しているバーで飲んだあと、千鳥足で自宅マンションまで歩くうち、涙がとめどなく溢れてきました。
こんなつもりじゃなかった。あたし、みんなを幸せにするために会社を起こしたのよ…
地面にしゃがみ込んで嗚咽をもらしていると、ふいに光の気配に包まれ、社長はあたりを見回しました。
すると、目の前には、今まで見たことがなかったレトロな路地がまっすぐ延び、その突き当たりでオレンジ色の灯りが穏やかな光を放っています。
優しいマスターがいるバーなのかもしれない。
社長はもっと酔ってやろうと思い、その路地に足を踏み入れました。
黒縁眼鏡のコンサルと飼い犬に酔いを冷まされた社長
バーだと思い込んで扉を開けた店は何と、妙にたくさんの旗が飾られたWebコンサル店でした。
素面の店主はテーブルについて、もさもさとした毛並みの犬を膝に乗せ、念入りにブラシをかけてやっています。
社長を見た犬は、クウンとひとつ鼻を鳴らしました。
「なんですか、ここ」
社長は黒縁の男にそう訊ねましたが、気がつけば自動的に同じテーブルについて、すぐに打ち明け話を始めていました。
初対面の相手に、自分は何をべらべら話しているのかと戸惑っても、口は止まりません。
支えてくれた部長を敵に回したこと、従業員からこれっぽっちも信頼されていないこと、業績もじりじり落ちてきていること。社長は喋りに喋ります。それは、抗しがたい衝動でした。
自分がこんなにも誰かに悩みを聞いてほしかったのだということを思い知らされ、自立心旺盛な彼女はショックさえ受けていました。
「素直な自分に戻れないんです。優しくすることと甘やかすことの区別がつかなくて。一度甘いことをやって、従業員に付け込まれたことがあって、そこからは手をゆるめることができなくなりました…」
ずっと黙って話を聞いていたWebコンサル店主は、少し考えたあと、目の前に並んだ色とりどりのフラッグのなかから1本を選び出し、膝の上の飼い犬の背中に結わえて、社長のもとへ差し向けました。
犬が運んできた謎のフラッグを受け取った社長は、その表面に書かれた文字に目を奪われています。
「顧客行動理論を使って自らの行動を省みる」
顧客行動理論?社長の目が疑問を呈していることを察知したようで、店主は社長にこう告げたのです。
「AIDMA分析です。やってみてください。ですが、ミッションに取りかかる前に確認しておいていただきたいことがあるので、お家に帰ったら、必ずフラッグの裏をお読みください。」
狐につままれた気分で帰宅した社長は、言われたとおりにフラッグの裏面を見てみました。そこには、こんなことが書かれています。
「分析を行う前に、ご自身の肩にこのフラッグを立ててください。社長以外にはこのフラッグは見えません。ただし、素直になって分析をやり遂げないと、悩みが倍増する危険があります。」
悩みが倍増…
これ以上悩んだら、とても会社など続けていけない、と社長は思いました。
すっかり酔いは冷めています。
社長は自分の肩にフラッグを立てると、デスクにライトをつけ、ノートを開いてペンを握りました。
顧客の行動に伴う心理を自分の悩みに置き換えるということは、従業員を顧客と見なして分析すればいいのでしょうか。
社長は、従業員が自ら率先して業績アップのために動きたくなる行動プロセスを考え、その裏にある心理を分析してみました。
すると、従業員が業務のなかで起こす行動の裏には、いつも切実な願いがあることが見えてきました。
「会社に認められたい」「お客様に感謝されたい」「人の役に立ちたい」「仕事で成功したい」「収入を上げたい」「家族に褒められたい」「社長に褒めてもらいたい」
社長はため息をつきます。一方、従業員に対する最近の自分の心理はこうです。
「社員が堕落して職務怠慢にならないように」「給料以上の働きをしてもらわないと元が取れない」「甘やかしたらナメられる」
需給はまったく合致していませんでした。
肩のフラッグをずっと立てていることを決めた社長
社長は分析を行った翌日、朝5時に起きて朝食を取り、ヨガをして入浴してフルメイクをする、という一連の流れをやめました。
そして、素顔で出勤してみました。これには大変な勇気が必要でした。
しかし、自分の意識が変わったこと、着ていた鎧を脱ぐことの象徴として、必要な行動に思えたのです。
社員たちの好奇の目がつらかったものの、思い切った社長は従業員を前に、こんな提案をします。
「朝礼の時間を返上して、みんなでメイクをしませんか?」
その言葉を聞いた若手社員の表情が一変しました。朝の厳しいダメ出しミーティングを恐れて、暗い顔をしていたのが嘘のようです。
「以前、やめた部長に、言われたんです。女性のお客様は、リラックスしに来るのに、店員がばっちりフルメイクしてると、気後れするんじゃないですかって。見た目に気をつかわないと来られないような”緊張させるお店”にしてはいけないのではないでしょうかって。もっともな意見ですよね」
社長は、従業員と相談しながら、穏やかで清潔感のあるナチュラルメイクの仕方を研修していきました。
メイクを終えて鏡を見てみると、そこにいるのは、こってりと塗っていたアイメイクもチークもリップもない、穏やかで静かな自分です。
「ありがとう。明日からはこのメイクで出勤します」
社長がそう言うと、場の雰囲気はミーティング前とは比較にならないほど柔らかいものに変化しているようでした。
この雰囲気を、サービスにも繋げたい。
社長は心からそう願いましたし、従業員たちもそう思ってくれているような気がします。社長はひとまず、この肩のフラッグを抜かないようにしておこうと決めました。
その頃、あのアヤしい路地裏では、Webコンサル店の店主がこんなふうにつぶやいていました。
社長、ナイスフラッグ! 甘やかしと思いやりは違います。 いやな物の言い方と厳しさも全くの別物なのではないでしょうか。 また、せっかくの行動分析や心理分析も、表面的にやっていては何の意味もありません。 顧客はもちろん、社員に対して誠実であるためには、まず自分に正直に。そう思われませんか。
さて、この会社の行方はいかに。
*このブログのお話は創作です。