中途採用した営業マンの采配に迷う中小社長のフラッグ
『ザ・ベストフラッグ』エピソード4
- 『ザ・ベストフラッグ』店主 黒縁眼鏡のWebコンサルタント
- 『ザ・ベストフラッグ』看板フラッグ犬
- 今回の悩める社長
- 会社の現キーマンと社員のみなさん
ここは、悩める経営者だけに見える店『ザ・ベストフラッグ』。
人知れず、中小企業経営者に悩み解決のヒントを手渡している、秘密のブログです。
偶然立ち寄ったあなたを待ち受けるのは、社内の結束か、社内不和か、それとも…
いつものように、店主のもとには色とりどりのミッションフラッグが用意されています。
どのフラッグを手渡されるかは、各々の社長の悩みしだい。
さあ、今日のフラッグにはこんなミッションが書かれているようです。
「代表者1名に5フォース分析を任せ、社長に報告させる」
フラッグを手渡された経営者は、このミッションを遂行しなければなりません。
その前に、5フォース分析とは何かを、おさらいしておきましょう。
次の5つの「脅威モデル」を分析し自社を取り巻く市場環境を理解して事業に活かすこと
- 競合他社の脅威
- 新規参入者の脅威
- 代替品の脅威
- サプライヤーの交渉力の脅威
- バイヤーの交渉力の脅威
これらを分析することにより、自社業界の現況はもちろん、市場の収益の仕組みや、どの程度の収益性が見込めるかを理解することができる
たったいま、噂の路地裏では、『ザ・ベストフラッグ』店主が飼い犬にカメラを向けながら、何かつぶやいているようです。
自社評価に甘くなりがちな人よりも、客観的視点を持つ人のほうが、より的確な環境分析を行えることがあります。しかし、より重要なのは、競合他社の弱みになっているポイントを知り、そのポイントのなかで「自社なら勝てる、今最大限活かせる強み」とは何なのかを見きわめること。そして、その分析に則した事業展開を行うことではないでしょうか。
黒字も赤字も紙一重。
あなたの会社を動かす、現在のキーパーソンは、はたして誰なのでしょうか?
今日もまた、何も知らない社長が一人、路地裏に迷い込んだ様子です。
まずはこの社長のお悩みを拝見しましょう。
つねに新たな悩みに襲われる社長が迷い込んだ迷宮
地元で5軒のコンセプチュアルな飲食店を展開してきた中小企業の社長は、また新たな趣向の飲食店出店を検討中です。
この事業に関して営業面を強化したいという思いから、社長自らが私生活で通っていた飲食店の社員を、営業要員として自社に引き抜きました。
社長はずっと営業要員を探していましたが、なかなかこれと言った人材に恵まれず、自分の行動範囲でチャンスがあれば、引き抜きたいと考えていたのです。
次の出店では画期的なプランを立て、新たな顧客層を開拓したい社長。
調理やメニュー開発ができて営業能力も高い新たな社員に、社長は大いに期待していました。
ところが、転職してきた有望社員は、もとからいた社員たちの客観性を欠いたアイデアが気に入らないこともあり、職場にうまくなじめずにいました。
一方の営業部長は、突然やってきた新たな部下が気に入りません。
彼は会議中、部長のアイデアに場内が納得しているなか、「部長のご意見は一見先進的ですが、お客様の受け止め方はどうなんでしょう。奇をてらってるように聞こえてしまいました」と臆面もなく言ってのけ、部長の頬を赤くさせたことがありました。
この一件をきっかけに、社員には分断が生まれました。新たな営業部員を連れてきた社長にも、批判の目が向けられています。
会社のために良かれと思って決行した人事を悪意に取られ、社長はつらい気持ちになりました。
また、前職で頑張っていた人を口説き落としてまで転職してもらったにもかかわらず、居心地の悪さを感じさせて、新たな部下に申し訳なくもあります。
バーで一杯飲んだあと、社長はタクシーを拾うために通りへ出て歩き出しました。
すると、あたりが急に暗さを増し、目の前を見ると、これまで見たことのない狭い路地が延びているのでした。
路地の奥にはオレンジ色の灯りがともっています。
なぜだかわかりませんが、社長はタクシーを拾うことも忘れて、吸い寄せられるように、その路地を進んでいったのです。
路地裏の商店で社長を待っていたのは謎のWebコンサルと飼い犬
オレンジ色の灯りを煌々と放っていたのは、何とWebコンサルタント会社でした。
店主は悠然とテーブルにつき、膝の上に乗せた犬を撫でさすっています。
おれはコンサルなどに用事はない、と社長は一度は踵を返そうとしました。
しかし、黒縁眼鏡の向こうでこちらを見据える店主の目を見た瞬間、自分の意思に反して、いま社内で抱えている問題をぺらぺらと喋り始めていたのです。
社長は新しい社員の良さを語っているうち、本当は自分が誰かをえこひいきをするような人間なのではないかと思えてきました。
期待をかけている新しい社員はもちろんですが、部長も大切な社員です。社内に生じた分断の責任は自分にあります。社長は改めてがっくりと肩を落としました。
Webコンサル店の店主は、うなだれた社長を前にしても、動じる様子も見せずに、そばにあった1本のフラッグを飼い犬の背中に背負わせ、社長のもとへと向かわせました。
社長は、犬が持ってきたフラッグの表面に文字が書いてあることに気が付きます。
そこには、こんなことが書かれていました。
「代表者1名に5フォース分析を任せ、社長に報告させる」
5フォース分析?なんだそれは。
社長はそう聞き返したかったのですが、社長としての見栄が邪魔をして聞けません。店主の目を見てただ一度コクリと頷くと、店を後にしようとしました。
すると、背後から店主の声がします。
「社長、そのフラッグですが、もし使い方を間違えたら、私が助けますからご安心を。ただ、注意事項が裏に書いてありますので、必ずそれを守ってください」
社長はびくっとなり、やがて恐ろしくなって、フラッグを握りしめたまま、急いで謎のWeb商店を出ていきました。
路地を抜け出て、恐る恐るフラッグの裏側を見てみると、そこにはこんなことが書かれています。
「5フォース分析を任せる相手の肩にこのフラッグを立てていただきますが、その人は御社の命運を握るキーパーソンだとお考えください。社長以外にはこのフラッグは見えません。ただし、人選を誤ると、悩みが倍増する危険があります。」
何だって?
社長は人目もはばからず、大きな声をあげました。
明日は何度目かの企画会議がある日です。フラッグを誰に立てるのかは、その結果を見てから決めるしかありません。
社長は誰の肩にフラッグを立てるべきか悩みに悩んだ
5フォース分析とは、業界内の現状を詳しく分析することだ、ということを知った社長。今日の会議終了後に、フラッグを立てる相手を決めなければなりません。
企画会議では、案の定、部長と新たな営業社員との間で小競り合いがありました。
部長はフランチャイズ展開まで見越した大胆なプランを発表しました。それは最近の食のトレンドを取り入れた魅力的な計画で、これまでにも増して強気な主張です。
かたや、社長が有望視している営業部の新社員は、驚くほど堅実なプランを考えてきました。
既存の5店舗のメニューやサービス見直しを徹底するというのです。
正直、社長は新しい社員の意見にあまり魅力を感じませんでした。部長の意見を採用したほうが、きっと大きな勝負に出られます。
今回は恐らく、部長がわが社の命運を握るキーパーソンなのでしょう。
会議終了後、社長は迷ったあげく、部長の肩にフラッグを立てました。
「念のため、業界分析を頼む。5フォース分析というやつだよ。君のプランを実現するかどうか、決断する材料にする」
社長は覚えたての言葉を口にしました。
黙っていた部長は、
「わかりました。でも、その分析結果に納得していただけたら、私の案を採用していただけますか?」
と切り返してきたのです。社長はお茶を濁しました。そう言われると。自分の判断に自信が持てません。
そして、後日部長が持ってきた5フォース分析は、かなり読みが甘い内容でした。
ただでさえ、コロナで低調な飲食業界です。仕入価格も高騰しており、トレンドはいつまで続くかもわかりません。
競合がやっているような巨額な費用をかけた内装や、多店舗展開などに手を出し、もし失敗したら一巻の終わりです。
やはり、いまは奇策で勝負に出るときじゃないのか…
社長はどうしたらいいのかわからなくなりました。
社長が選んだ再起の方法は…
社長は、堅実な意見を出してきた新しい営業部の社員を連れて、路地裏のWebコンサルのもとへ向かいました。
初めてあの路地を見つけた日と同じバーに寄って、同じお酒を飲んでみると、何とかあの店に辿り着くことができたのです。
社長が来ることを知っていたかのように、扉を開けて顔を出した黒縁眼鏡の店主は、開口一番にこう言いました。
「どこで間違えたのか、復習する勇気はおありですか?」
社長はどきりとしましたが、他に助けを求められる人の顔が思い浮かびません。
「よろしくお願いします」
店主は頷くと、2人を店の奥のソファに促し、温かいコーヒーを前に作戦会議を始めました。
「このプロジェクトのキーマンは、あなたです」
Webコンサル店主は、調理もできる転職組営業マンの目を見てそう言いました。
『いまの御社では、多分あなただけが客観的な目線をお持ちです。あなたを先頭にして今回のプランを練り直し、いまは対岸にいる社内の皆さんを巻き込みます。期間は3か月間です。社長、よろしいですか?』
社長は深く頷くしかありません。まな板の上の鯉の心境です。
足元では、もさもさとした毛のフラッグ犬が、前肢をクロスさせて居眠りしています。
さて、この会社の行方はいかに?
*このブログのお話は創作です。
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