孤立を深める中間管理職の姿を見ていられない社長のフラッグ
『ザ・ベストフラッグ』エピソード3
- 『ザ・ベストフラッグ』店主 黒縁眼鏡のWebコンサルタント
- 『ザ・ベストフラッグ』看板フラッグ犬
- 今回の悩める社長
- 会社の現キーマンと社員のみなさん
ここは、悩める経営者だけに見える店『ザ・ベストフラッグ』。
人知れず、中小企業経営者に悩み解決のヒントを手渡している、秘密のブログです。
偶然立ち寄ったあなたを待ち受けるのは、会社の再生か、社員の自信回復か、それとも…
店主のもとには、色とりどりのミッションフラッグが用意されています。
どのフラッグを手渡されるかは、各々の社長の悩みしだい。
どうやら、今日のフラッグにはこう書いてあるようです。
「 部署の垣根を超えて経営戦略会議 → 代表者が結果を社長に報告 」
フラッグを手渡された経営者は、このミッションを遂行しなければなりません。
さて、悩める社長はどうするのでしょうか。
経営戦略とは?
今回の社長に課されたミッションのなかにある「経営戦略」とは何かを簡単におさらいしておきましょう。
企業活動を行う上で掲げた目標を達成するための方向性を決めること。
主に以下の4点について、調査・分析・会議を経て決定。
- 経営理念:会社が存在している理由「何のために」
- 経営ビジョン:理想の将来像「こうなりたい」
- 経営行動指針:ビジョン達成のための方針「こうする」
- コーポレイトアイデンティティー:上記3要素をデザインで表現する
たった今、『ザ・ベストフラッグ』の店主が、飼い犬を抱き上げながら何かつぶやきました。
『課長や部長といった中間管理職の苦労を理解してあげられるのは、社長くらいしかいないのではないでしょうか。ミドルマネジメント層は、社長の顔色を伺っていると部下たちから嫌われ、反対に下からの意見ばかりを取り入れていると、経営陣から煙たがられる因果なポジションです。役職づきの社員にこそ、経営や営業の基本のキの字を思い出してもらいましょう』
黒字も赤字も紙一重。
あなたの会社を動かす、現在のキーパーソンは、はたして誰なのでしょうか?
また今日も、社長が一人、何も知らずに路地裏へやってきたようです。
こちらの社長さんのお悩みを覗いてみましょう。
悩める中小経営者様、『ザ・ベストフラッグ』へようこそ
体にいい調味料・食材の開発・輸入製造を手がける中小食品メーカー社長。
ひと昔前までは、どちらかというとニッチな市場だった健康食品も、最近では随分とマーケットが広がりました。
いつのまにか競合が増加している状況に、社長は焦りを感じています。
社長は糖質や塩分を抑えた健康宅食事業に参入したい考えですが、商品企画部の社員たちは、低カロリー低糖質のスイーツ商品開発に注力すべきだと訴えています。
部長は、「いまニーズが増えてる健康宅食に、草分けのわが社が参入しないなんてあり得ないぞ」と、社長からくり返しせっつかれる毎日です。
しかし、現場に戻れば部下たちから、宅食はすでにわが社が入る余地がない状態なので、スイーツブランドを立ち上げたいと言われる始末。
どちらの顔を立てるべきなのか、どちらの意見に決めるべきなのか、部長は悩みに悩みました。
ある日、部長は職場で鼻血が止まらなくなり、救急車で運ばれます。
急激な血圧上昇が判明し、数日間の静養を余儀なくされました。原因は極度のストレスだということです。
社長は部長にストレスをかけ過ぎたことを反省しましたが、それよりも、期待をかけてきた部長に、この先どう向き合えばいいのかわからなくなり、頭を抱えました。
部長より下の社員に、弱音を吐いてもどうにもなりません。彼らは最近、敵を見るような目で社長を見てくるのです。
若手社員と自分との緩衝材になってくれていた部長が倒れてしまうとは。
部長の症状は幸いにも深刻ではなく、すぐに職場復帰できることがわかっているものの、問題は何も解決していません。
社長は気が重くなり、うつむき加減で帰路をふらふらと歩いていました。
そこへふと灯りの気配がし、前を向いてみると、これまで存在に気がつかなかった狭い路地が延びているではありませんか。
路地の奥からは、オレンジ色のやわらかい灯りが、いかにも社長を手招きしているようにおぼろげにともっています。
社長は何となく誘われるまま、その灯りを放っている商店へと歩を進めました。
路地裏の商店で社長を待っていたのは黒縁眼鏡の男と犬
灯りがともっている店の扉を開けたとき、正面のテーブルについていたのは、黒縁眼鏡をかけた男と、毛並みがもさもさとした愛らしい犬でした。
店内にはペナントのような旗が所狭しと、しかし整然とディスプレイされています。
社長は不思議な気持ちになり、怖くて帰ろうかと思いましたが、店主らしき男の目をひとたび見ると、自然とテーブルについてしまいました。
そして、いつのまにか、いまの社内の様子、部長のこと、企画の悩みまでを一気にまくしたてていたのです。
部長が倒れたいきさつを言葉にすると、社長の頬を涙がつたいました。
「苦労をかけてしまった。でも、会社は回さなければならないんです」
社長が話し終えると、店の主は目の前に並べた色とりどりのフラッグを眺め、首を左右に軽く振りました。
そして、立ち上がると、壁際のウォールナット製の書棚から、若草色のフラッグを取り出し、それを足元でまとわりついていた犬の背中に負わせました。
犬は社長が座っているところまでフラッグを届ける係をしているようです。犬が社長のもとへ向かう間に、店主が口を開きました。
「社長、このフラッグを、そこに書いてあるように、社長が決めた<代表者さん>に立ててみてください。もし使い方を間違えたら、私が助けますからご安心を。ただ、注意事項が裏に書いてありますので、必ずそれを守ってください」
社長は、渡されたフラッグの表面を見つめました。そこにはこんなことが書かれています。
「部署の垣根を超えて経営戦略会議→代表者が結果を社長に報告」
社長は「部署の垣根を超えて」という部分に正直驚きましたが、店主の目を見て頷くと、そそくさと謎の商店を後にしました。
そして、路地裏を抜け出てから、店主のいいつけどおりにフラッグを裏返してみました。
そこには何と、こんな文言が書かれてあり、社長を凍りつかせます。
「代表者と決めた相手の肩に、このフラッグを立ててください。社長以外にはこのフラッグは見えません。ただし、人選を誤ると、悩みが倍増する危険があります」
どんなに不安でも、またストレスをかけてしまうとしても、フラッグを立てる相手は一人しかいない。社長は決心しました。
社長はフラッグを握り締め、まっすぐに部長のほうへ向かった
企画部長が職場復帰した日、社長は「だいじょうぶか」と声をかけながらも、いきなり彼の肩にフラッグを立てました。
店主の言ったとおり、フラッグは誰にも見えておらず、刺さった感触さえもないようです。
さあ、ここからが社長に課せられたミッション。
「しんどいところ悪いんだけどな、もう一度経営戦略を練り直してくれないか。企画部だけじゃなくて、営業部も製造部も参加させてほしい」
部長は社長の口から「自分の意見を通したい」という言葉が聞かれなかったことに驚きました。
これは、何かきっと社長に思惑があるのだと、部長は直感します。
しかも、部署の垣根を超えた会議だなんて、わが社ではほとんどしたこともありません。
部長は自信がありませんでしたが、すぐに各部署の長に声をかけ、会議開催を告げたのです。同時に部長は、緊急顧客アンケートも開始しました。
経営戦略会議では、会社の企業理念である「食の楽しさと安全性を通じて、お客様に生きるよろこびを実感していただく」の意味が大きな議論となりました。
また、社長が主張する「健康宅食」を提供している会社は、すでに同じ地域に複数競合していることに対しても多くの意見が出ました。
大手はコストを抑えやすいため、価格では勝てないという不安の声が多数を占めたのです。
経営戦略策定の決め手となったのは、アンケート結果でした。
実施したアンケートを全員で読み込んでいくうち、生活習慣病やアレルギー体質に悩む高齢者、子育て世代の顧客から、安心素材の甘いものが食べたいという回答が多数寄せられている事実がわかったのです。
部長は、約束の期日に社長のもとへやってきました。
その表情は自信に満ち、迷いがないように見えます。
「社長、すみませんが、やはりスイーツでいきます」
はきはきとした口調で部長はそう言うと、さらにこう続けました。
「食で生きるよろこびを感じていただくためには、食べたいのに我慢しているものを、食べられるように工夫してご提供するのが一番だという結論に至りました」
社長は大きく頷くと、部長が自分の顔色も、部下の顔色も見ていないことに密かな感動を覚えていました。
「誰のほうを見て仕事をしてるんだ、社長の顔色や工場長のご機嫌見てないで、お客さんの方を見ろ!」
思い出したのは、10年前の自分の口癖でした。いつのまにか、お客様のほうを見て仕事することを忘れていたのは、部長だけではなかったようです。
その頃、あの路地裏にWebコンサル店主の声が、静かに響いていました。
社長、ナイスフラッグ!
でも、これからはもっと大変ですね。いつかまたお役に立てるときまで。
さて、この会社の行方はいかに。
*このブログのお話は創作です。
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