会社の後継者問題に思い悩む社長のフラッグ
『ザ・ベストフラッグ』エピソード5
- 『ザ・ベストフラッグ』店主 黒縁眼鏡のWebコンサルタント
- 『ザ・ベストフラッグ』看板フラッグ犬
- 今回の悩める社長
- 会社の現キーマンと社員のみなさん
ここは、悩める経営者だけに見える店『ザ・ベストフラッグ』。
人知れず、中小企業経営者に悩み解決のヒントを手渡している、秘密のブログです。
偶然立ち寄ったあなたを待ち受けるのは、会社の未来への不安軽減か、社員のモチベーション低下か、それとも…
いつものように、店主のもとには色とりどりのミッションフラッグが用意されています。
どのフラッグを手渡されるかは、各々の社長の悩みしだい。
見てください。今日のフラッグにはこう書いてあります。
「社内の誰かに、これまでとは視点の異なる3C分析をやらせてみる」
フラッグを手渡された経営者は、このミッションを遂行しなければなりません。
と、その前に、3C分析とは何かを、おさらいしておきましょう。
事業を展開するときに指針をつくるための分析手法のこと。
次の3つのCについて分析することで、自社が重視すべき課題を探る。
- Customer/顧客
- Competiter/競合
- Compny/自社
顧客と競合については、他者なので、それぞれの視点に立って物事を考え、その分析結果を活かして、2つのCとどのように向き合うのか、自社の事業課題を策定。
たった今、『ザ・ベストフラッグ』の店主が、飼い犬と窓の外を眺めながら、こんなことをつぶやいていますよ。
3C分析だけではなく、環境分析を行う場合には総じて冷静な客観力が必要です。意識的に第三者の目線を使わないと、どうしても身内びいきになり、効果的な戦略を作るための有意義な課題がつかめません。
黒字も赤字も紙一重。
あなたの会社を動かす、現在のキーパーソンは、はたして誰だとお思いですか?
今回もまた、何も知らない社長が一人、『ザ・ベストフラッグ』を訪れる様子です。
まずはこちらの社長のお悩みを見せていただきましょう。
悩める経営者を待つ、路地裏の相談室へ
地域で知らない人はいない、老舗のアパレル中小企業を束ねる3代目社長。
娘か息子に会社を継がせたいと思った時期もありましたが、先代社長の方針や、子どもたちに適性がないことをわかっていながら、みすみす後継者に指名することはできずに断念。
生え抜き社員のなかから、長きにわたって会社に貢献してきた製品企画部の部長に白羽の矢を立て、後継者問題もほぼ解決モードかと思われました。
しかし、このところ会社の業績はふるいません。
社長は、製品企画方針に若返りの必要を感じていました。部長のセンスや判断力は、どこか時代遅れ感が否めませんし、最近では流行の後追いばかりしている印象です。
となると、社長の器ではまったくないながら、自らデザインや縫製ができ、ファッショントレンド予想を得意とするわが娘に、社長の席を譲るべきなのだろうか。
しかし、現部長の取引先や部下からの信頼、ある種の強引さや勝負強さは、やはり社長向きであると考えてもいます。
社長は揺れていました。
「家族経営は実質おれの代で終わり。残るのはお前だけだからな。21世紀は外部から新しい風を入れないと、会社はすたれるぞ」と先代社長から言われた言葉が、20年以上経った今も心に残ったままです。
相談したい時に親はなし。
社長はどうすべきか悩み、昔の友人との食事の席で愚痴をこぼしたあと、自宅までの道をよろよろと歩いていました。
見慣れた道を進んでいましたが、立ち寄ろうと思っていたコンビニがないことに気づいた社長。
その代わり、コンビニがあった場所には狭い路地が延びていて、路地の奥から温かな色の光が灯って見えています。
飲み過ぎたかな。
そうつぶやきながら、まるで操られているかのように、社長はその狭い路地に吸い込まれていったのです。
中小アパレル社長を待っていた謎の男の正体
狭い路地の突き当たりには、味わい深い外観の小さな商店がありました。
社長がその扉を開けてみると、部屋の正面には大きなテーブルがあり、その脇では黒縁眼鏡をかけた男が、もさもさとした毛並みの犬と戯れています。
男は社長に気がつくと、犬の動きを制して、正面の椅子に腰かけるよう、社長に手で促しました。まるで社長が訪れることを知っていたかのようなスムーズさでした。
社長は不気味になり帰ろうと思い立ちましたが、黒縁の男の目を見たとたん、なぜだか座りたくなってしまい、腰を下ろしたが最後、自分でも制御できない勢いで、いま抱えている会社の後継問題について喋り始めたのです。
「私は、本当は自分の子どもに会社を継がせたいんじゃないでしょうか。それが本音なのではないかという気がしてくるんです。その欲望に勝って、他人である部長を信頼するにはどうしたらいいのか…」
普段、他人に弱音を吐くことができない社長。
見ず知らずの男に、恥も外聞も忘れて思いをさらけだしていることが、だんだん快感になってきました。
黙って社長の話を聞いていた男は、テーブルの引き出しから色違いの2本の旗のようなものを取り出し、両者を見比べました。
そして、そのうちの1本を、愛犬が着ている洋服の背中の長細いポケットに固定し、社長の元へと運ばせました。
社長は犬から謎のフラッグを受け取り、旗に書かれた文字を見てみました。そこにはこう書かれてあったのです。
「社内の誰かに、これまでとは視点の異なる3C分析をやらせてみる」
記憶が正しければ、3C分析とは、確か自社と他社と市場の3つの分析だったはずです。
黒縁眼鏡の男は、社長に向かってこう言いました。
「店を出たら、フラッグの裏面を必ず確認してくださいね。必ずですよ」
社長は頷きながら、なんだか気味が悪いと思い、そそくさとWeb商店を後にしました。
部長にフラッグを立てることを決意した社長
路地裏のWeb商店から遠ざかると、社長は外灯の下でフラッグの裏面を見てみました。そこにはこう書かれています。
「3C分析を任せる相手の肩に、このフラッグを立ててください。社長以外にはこのフラッグは見えません。ただし、人選を誤ると、悩みが倍増する危険があります。」
何をバカな…なぜおれがこんなことをしなくてはならないんだ。
社長はそう思いましたが、だからといって他に良い案は何も浮かびません。
これまでとは異なる視線で3C分析をする。と社長は声に出して言ってみました。
価値観やセンスを、昭和の時代からアップデートできない部長に、そんなことができるでしょうか。この分析だけなら、わが娘のほうがうまくやるかもしれない。社長はまだ娘に会社を継がせることに未練があります。
しかし、翌朝、社長がフラッグを立てたのは、現在の製品企画部長でした。人選ミスをしたら悩みが倍増するというのですから、ここは勝負です。
「いままでに考えたこともない視点で、自社や顧客ニーズの分析をするのですか?」
部長は動揺していました。
「1週間後に、分析結果をミーティングでみんなに報告してほしい。それを今後のひとつの指針にする。小さな洋品店から祖父がここまでにした会社なんだ。頼りにしてるよ。」
社長は「後は野となれ」の心境で、部長にそう告げたのです。
社長の言葉を聞いた部長は、『そうか。もともとは、この会社は注文を受けてスーツやワイシャツのお仕立てをして成長した歴史があるんだ』ということを思い出します。
社長が折り入ってこんな命令をするとは、ただごとではありません。
部長は、今のお前のやり方ではダメだ、と三行半をつきつけられているようで、最近感じたことのない緊張を覚えました。
同時に「原点回帰」という文字が、部長の頭をかすめてもいるのでした。
部長が発表した3C分析結果とは…
トレンドの後追いばかりで、市場に出た頃にはブームが終わっている、という失態をくり返し、迷走してきた老舗アパレル会社。
その事実上の船頭として社を率いてきた部長は、「売れ筋や売れそうな洋服を、昔からのつき合いがある繊維問屋さんと製品化する」を定石としてやってきました。
しかし、今回は背水の陣で分析にあたり、いま、アパレルでは大量生産に対するアンチの考え方が広がっていることを初めて知ったのです。
また、洋服のニーズは多様化していて、これまで通りに右へならえでは、とても生き残れないということもよくわかりました。
約束の日、ミーティングの席で、部長は社員たちに向かって3C分析結果を報告し、その結果、創業時洋品店だった頃のノウハウを活かし、セミオーダーの洋服を作る方針を発表しました。
そのあと社員からは、「気に入っている服で、もう売っていないものに似た服を作ってあげるサービスはどうか」とか、「デザインを数種類決め、色柄やサイズを選べるシステムはどうか」など、活発な意見が出され、盛況のうちにミーティングは終わりました。
部長は、若手社員が生き生きとした表情を浮かべている姿を、初めて目にしたような気がしました。
「社長は、おれの目を覚まさせるために、分析をさせてくれたんだな。なんてありがたいんだ! まさか、こんな発想や会議がうちの会社にできるなんて…」
部長は社長の器の大きさに気づかされ、社長が感じている会社の将来への不安を払拭できるような人間になろうと自分に誓うのでした。
「おれは、あの人から受け取った旗を肩に立てただけなんだが…」
部長の様子を見ていた社長は、苦笑しながら、路地裏のWebコンサルの姿を思い出しています。
その頃、路地裏ではあのWebコンサルの声が静かに響いていました。
社長、ナイスフラッグでした。
娘さんの才能をどう活かせるかも、楽しみですね。またお会いしましょう。
さて、この会社の行方はいかに。
*このブログのお話は創作です。
コメント