【直請けの開拓か親会社のご機嫌か】中小企業の営業部長に託された挑戦のフラッグ

このお話の主な登場人物

・『ザ・ベストフラッグ』店主 黒縁眼鏡のWebコンサルタント
・『ザ・ベストフラッグ』看板フラッグ犬
・今回の悩める企業人
・会社の現キーマンと社員のみなさん

*このブログのお話は創作です

ここは、悩める経営者だけに見える店『ザ・ベストフラッグ』。
人知れず、中小企業経営者・役職者に悩み解決のヒントを手渡している、秘密のブログです。

偶然立ち寄ったあなたを待ち受けるのは、頑固社長の歩み寄りか、それとも……

今日も店主のもとには、色とりどりのミッションフラッグが用意されています。
どのフラッグを手渡されるかは、それぞれの企業人の悩みしだい。

どうやら、今日のフラッグにはこう書いてあるようです。

ホームページ制作を営業戦略立案から考える

フラッグを手渡された人は、このミッションを遂行しなければなりません。
それにしても、営業戦略とはそもそも何なのでしょう?

ここでおさらいしておきましょう。

営業戦略とは?

自社の経営目標達成の手段である「営業」に関する計画。中長期的な計画を立てるのが一般的。現状の営業を数値的に分析する作業や、競合他社・業況を知ることが必要となるため、Webに頼る場面も多い。

ほら、たった今べスフラ店内で、店主はこんなことをつぶやいています。

営業戦略は確かに営業部や営業課が中心となって取り組む仕事。しかし、実は直接営業業務に関わらない部署の社員も、同じ方向を向いて企画・製造・販売を行うために、会社の営業戦略を強く意識することが重要なのです。

黒字も赤字も紙一重。
あなたの会社を動かす、現在のキーパーソンは、一体全体誰なのでしょう?

今日もまた、何も知らない企業人が一人、路地裏に向かってきます。
まずはこの人の現在の悩みを見てみましょう。

リスクはあるけど直請けを開拓したい!部長から社長への懇願

今回登場する中小企業は、商業印刷メインで受注している中規模印刷会社。創業40年の歴史があり、社員数35人年商26億を誇ります。

しかし、業績はゆるやかに下降しているというのが実情。

こちらの印刷会社は、こちらの印刷会社は、週刊誌、月刊誌の印刷を主事業とし、一般企業のカタログ・マニュアル・社内報などの、多数の取引先を持っていますが、常にライバル会社と条件・価格で競合するリスクを抱えています。

しかも、電子化が進む中で、徐々に発注の頻度や数は減少傾向に。

他社との価格競争に陥るたび、営業部長は「従来の取引とは別に、Web戦略を強化して新規に直請けできる相手を開拓したい」と考えてしまいます。

一方の社長は、これまでの取引先を優先できなくなるリスクに強い不安を持っており、Webに注力することに対し消極的です。

部長は何度も社長にかけ合い、Webの大規模リニューアルを行いたいと訴えてきました。
しかし、社長から聞かれるのはいつも生返事ばかりです。

しつこくお願いすれば、「Webで直請け獲得に走ったりしたら、大事な取引先から、『ウチが急いで印刷かけてくれって言ったときに、どう対応するんだ?』と怒られてしまうぞ。そんな不義理が許されると思ってんのか!仕事もらえなくなるぞ!そうなったら、君が責任と取れるのか?」と言われる始末。

現在のコーポレートサイトは、ひと昔もふた昔も前のもので、住所や会社沿革などの情報が1ページあるだけの頼りないものです。画像の1枚すらありません。

こんなWebでは、新規顧客を獲得できるどころか、「営業する気などさらさらない会社」だと思われても仕方がないのではないか?と部長は苛立っています。

自分と同世代以下の社員は、概ね部長と同意見。頑固な社長さえ首を縦に振ってくれたなら、やってみたい営業や企画がたくさんあるのに……。
部長はジレンマを感じ、毎日モヤモヤして過ごしていました。

食い下がる部長に根負けした社長

古臭いWebページしか持たないこの印刷会社の営業部長。

ある日、自社と同年代に創業したライバル会社が採用希望者が集まらないことに悩んだ末、Webサイトを刷新したことを知りました。

自社も採用が思わしくありません。会社見学会やセミナーを開いても学生はあまり集まりませんし、学生からのアンケートではWeb情報があると助かるという声も届いています。ライバルに先を越された形です。

営業方針を変えたいと訴えると社長の逆鱗に触れてしまう。ならば、その「お怒りポイント」を薄めるには、採用に注力するためにWebをリニューアルしたい、という口実を前面に出してはどうか。

部長はそう考え、勇気を出して社長に話を切り出しました。

社長は部長の考えをお見通しでしたが、話を聞いて「最近は新卒はもちろん、キャリア採用がうまくいっていないことは確かだな」と感じたようです。

また、一番のライバル会社の名前が出てきたことも、社長の負けん気に火を付けました。
結局、従来の取引先への配慮を忘れないことを条件に、社長は部長にWebの大規模リニューアルを許可しました。

これまであれほど懇願してもびくともしなかった社長の意思が変わった……。
この事実は部長をはじめ、多くの社員たちを驚かせました。

しかし、喜んだのもつかの間。部長が早速さまざまなWeb制作会社に問い合わせをしてみたところ、一様にどんなWebサイトにしたいのか、目的や理想を聞かれます。

これといったプランがなくても、制作会社が細かいことまであれこれ提案してきてくれるものだと予想していた部長。
何を聞かれてもうまく答えられず、一旦制作進行を止めてしまいました。

困った部長はとるものもとりあえず、日がな一日デスクでパソコンとにらめっこ。
参考サイトを得るために、さまざまな印刷会社のWebページをリサーチしました。

調べていると、素敵なサイトは山ほどありましたし、遠隔地のお客様とも繋がることができるWebというものの良さも再認識しました。

一方で、自分がどんなWebサイトを作りたいのかが全くわかりません。せっかく社長がサイトリニューアルを了承してくれたのに、そして自分は営業部の長なのに……。

部長は自分が不甲斐なくて、やりきれなくなりました。

アヤしげな路地裏のWebコンサルから受け取ったミッション

部下や他部署の社員たちから、「Webサイト、楽しみにしています」と声をかけられる機会が増え、悩みが深まるばかりの部長。

あれだけ「Webが必要」「Webの力がないとこれからは営業もままならない」と豪語してきたのに、いざ制作の段となったらまさかのノープランとは……。

他社サイトを見過ぎて何がいいのか悪いのかわからなくなった部長は、会社帰り、1人で行きつけの飲み屋に寄り、いつもよりも少し飲み過ぎてしまいました。

店を出て駅の方に向かいよろよろと歩いていると、部長はいつも通るその道の様子がおかしいことに気が付きました。
いくら歩いても駅に辿り着かず、気がついたら辺りはレトロな雰囲気に包まれていました。

部長はいつのまにか、見ず知らずの路地裏を歩いていたのです。
だいぶ酔っ払ったかな。はじめはそう思いましたが、何度目をこすっても状況は変わりません。

しかし、踵を返そうとした瞬間、路地裏の突き当りに穏やかなオレンジ色の灯りに照らされた木製のドアが見えました。その優し気なムードは、まるで心ささくれた部長を誘うようです。

部長は思わず、「あのドアを開けてみたい」と呟きました。
吸い込まれるようにしてそのドアまで進んでみると、店の看板には「ザ・ベストフラッグ」とありました。フラッグ?

部長は恐る恐るそのドアを開けてみました。

店内は間接照明がそこかしこで灯り、雰囲気満点です。ヴィンテージ調の大きなテーブルでは、黒縁眼鏡の男が椅子に座り、もさもさとした毛並みの犬をよしよしと撫でています。男は部長に気がつくと、正面の椅子に座るよう促しました。

突然の来客に驚きもしない。まるで僕が来ることを知っていたかのようだ、と部長は思いました。

アヤしい店だな、と訝りながら椅子に座ると、なぜか部長は何のためらいもなく、いま抱えている悩みをぺらぺらと話し始めている自分に気がつきました。それは止めることができない衝動です。

仕事の悩みをすっかり話してしまうと、黙って聞いていた黒縁眼鏡は徐に立ち上がり、彼の背後にある年代物のキャビネットの中から、1本の新品フラッグを取り出しました。

取り出されたフラッグは、「早く早く」とせきたてるように黒縁の足元で鳴いている愛犬「フラッグ犬」に託されます。

部長はフラッグ犬が運んできたフラッグを受け取り、その表面を見てみました。そこにはこんなミッションが書かれています。

「ホームページ制作を営業戦略立案から考える」

部長はそのメッセージを一目見て、「これって具体的に何をしたらいいんですか?」と黒縁にすがりました。黒縁眼鏡の店主は、その問いに対してこんなことを言いました。

「部長、営業戦略は営業部だけのものではありませんよ。いつまでも縦割りのみで仕事をしていると、いくらWebをリニューアルしても、さほど効果はないかもしれません。それから、フラッグの裏に注意事項が書いてあります。後ほどご確認くださいね」

部長は手元のフラッグとともに店主の言葉を手にして、アヤしげなザ・ベストフラッグを後にしました。

営業部だけで営業するのではない、という事実に目からウロコ

家に帰った部長は、貰ったフラッグの裏を見てみました。そこにはこう書いてあります。

「このフラッグは今回の課題解決の鍵を握るキーパーソンと思われる人の肩に立ててお使いください。大丈夫です。部長以外にフラッグは見えません。しかし、漏れなくキーパーソンを選んでフラッグを立てないと、Web制作は失敗する可能性が強まるでしょう」

注意書きを一読した部長は、ごくりと唾を飲み込みました。

Web制作成功の鍵を握るキーパーソンて、誰だ?
部長は黒縁眼鏡の男の言葉を思い返しました。

部長、営業戦略は営業部だけのものではありませんよ。

そうか、各部署のトップをみんな集めてみよう。営業部だけでは思いつかないアイデアや、新たな視点をもらえるかもしれない。

しかし、部長の会社には、営業部以外に印刷部・生産管理部・人事労務部・企画部があります。さらに、会社のトップである社長を忘れてはいけません。

受け取ったフラッグは1本。キーパーソンは自分を入れて6人ということになります。さて、残りの5本はどうしたものでしょうか。

翌朝フラッグをしのばせて通勤した部長は、地下鉄の駅を下り、いつものように会社に向かって歩き出しました。
すると、背後からキャンキャンいう鳴き声とともに、何かが自分に近づいてくる気配がしたのです。

振り向くと、ゆうべのフラッグ犬が、背中のケースに5本のフラッグを取り付けて走ってきました。
「なんだ君、こんな所まで持ってきてくれたのか?」

部長は嬉しくて、思わずフラッグ犬を抱き上げました。
部長が両手でフラッグを受け取り別れを告げるや、フラッグ犬は何か言いたげに一声吠え、またどこかへ走り去っていきます。

「ありがとう、フラッグ犬」

部長はそう呟くと、早速会社の門をくぐり、各部署の責任者に会いに行っては次々とその肩にフラッグを立てました。そして、自分の肩にも。
残るは1本です。

部長は社長に時間をもらい、全部署のトップみんなで営業会議を開くことを許可してほしいと願い出ました。
社長は「各自忙しいのに、そんなことに時間取らせてるんじゃないよ」と例の調子で怒っています。

部長は社長のそばに行き、残った1本のフラッグをその肩に立てながらこう言いました。

「皆さんの力が必要なんです。」

社長は「ムダだと思ったら途中で切り上げるからな……。仕方がない、やってみろ」と渋々承諾してくれました。
部長は胸を撫で下ろしましたが、本当のミッションはここからです。

数日後、部署の壁を超えた営業戦略のためのミーティングが開催されました。

Webリニューアルに先立ち、直請けの開拓と、既存顧客へのサービスの質向上という2つを両立させるための戦略を立てていったのです。

皆で市場を分析してみると、同規模の競合他社と比較した場合、パンフレットやカタログの類いは小口対応も柔軟にこなせそうだし、何より自社のコスパはかなり高いのではないかということがわかりました。

近年台頭してきた格安印刷会社に価格だけで対抗することは難しいかもしれませんが、長年かけて積み上げてきた印刷技術や企画力は、格安サービスとは一線を画するもの。そういった意味でのコスパは、かなり前面に出して訴求できそうです。

部署の垣根を超え、みんなで自社を客観的に分析してみた結果、改めて知った自社の強み。営業部長は目からウロコが落ちる思いでした。

また、女性起業家が増加傾向にあるため、ここをターゲットとした華やかでかわいらしいデザインの提案や、チラシ・ショップカードなど全て込みのパッケージプランなど、これまでやってこなかった個人への営業もやってみたい、という声も上がっています。

もちろん、採用を強化するためのWebページ作りやコンテンツについての提案もたくさん出されました。
記録を取る手が追いつかないほど、各部署トップから出るアイデアと希望。

従来の取引先から急な発注があった時の対処法についても皆で練り上げました。
社長は途中から黙り込んでいます。その表情には心なしか笑顔が浮かんでいるようです。

そしてミーティングの最後には、すっかり具体的な営業戦略が立案できていました。
部長は「この案を持って路地裏の店主とフラッグ犬に会いに行こう」と秘かに思っています。

その頃、当の黒縁店主はこう呟いていました。

部長、ナイスフラッグ。これからは、部署ごとの分業だけでは事業のプロモーションや会社のブランディングは無理かもしれません。素晴らしい会議になって良かったですね。路地裏で、お待ちしています。

さて、この会社とWebサイトの行方はいかに。

本作品のイラスト協力:黒曜 様

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